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前代未聞の利下げスピードであり、ここにこそ「バーナンキFRB」の特徴を見て取ることができる。 どういうことかと言うと、バーナンキ氏は著名な経済学者として業績を上げてきたわけであるが、彼の最大の業績は「大恐慌の研究」なのである。
彼自身、「3度のメシよりも大恐慌の研究が好きだ」と公言している。 それくらい大恐慌関連の本を読み、当時を背景にした映画を見たりすることが好きなのである。
彼には大恐慌に関して多くの論文があるが、その最終的な結論は何かと言うと||大恐慌は金融政策のミスによるものである、ということだ。 彼はミルトン・フリードマンの学統をそっくり継承しているから、1929年から31年にかけての最初の2年間に、ニューヨーク連銀積極的に資金を供給していれば大恐慌は防げたはずだ、と考えている。
それが、この何十年間にわたる彼の「大恐慌研究」の結論なのである。 バーナンキは、「12年以降は経済が混乱して、手の施しようのない状態になってしまった」と書いているが、その直前の29年から121年までの2年半に、ニューヨーク連銀がもっと資金供給をやっていれば、銀行が潰れるのを防げたはずであり、銀行の倒産を防げていればマネー・サプライが減少することもなかっただろうし、人々が銀行に押し寄せて取り付け騒ぎが起こることもなかったし、そうした取り付け騒ぎを恐れた銀行が資金をプールしておくために貸し渋りに走ることも回避されたはずだ、というのがバーナンキ理論の趣旨である。
その彼が今、まさに当時のニューヨーク連銀の立場にいるのである。 だから彼としては、なんとしても金融政策でこの問題を解決したい。
そこで金利を大幅に下げているわけである。 彼は、自分自身の研究成果を現実の経済のなかで12分に生かし、結論の正しさを証明したいと思っているだろう。

その意味で、バーナンキは前任者のグリーンスパンよりも積極的に金融政策で対応しようとするはずであり、実際にそうしている。 とはいえ、バーナンキも決して財政政策を否定しているわけではない。
フリードマンの場合は完全に否定しているが、バーナンキはそこまで頑なではない。 景気の悪化に対しては金融政策で対応すべきだという主張が強いことは確かである。
かつて彼がまだ学者だった時、日本の景気低迷を見て、日銀に向かって「日銀はトマトケチャップを買ったらどうだ。 そうすれば景気は良くなる」と発言したことがある。
当時のアメリカの学者たちはひどい言葉を使って、日本の金融当局をボロクソにこき下ろしていたが、バーナンキはその代表格であった。 今やそのバーナンキは自分が当時の日銀の立場に立たされているのである。
だから、バーナンキは急速に金利を下げたわけであるが、今後さらに下げることも辞さないだろう。 私は、日本の例を見てもそうであるが、バーナンキの金利政策は彼が期待しているような結果をもたらさないだろうと思っている。
日本は8%からゼロ%まで金利を下げたが、何も起こらなかった。 景気は良くならなかったし、株も上がらなかった。
不動産は下がり続けた。 なぜなら、いったんバブルが崩壊すると、企業のバランスシートが段損し、財務内容の悪化した企業は信用力回復のため借金返済に走り、誰も彼もお金を借りなくなってしまうからである。

金融政策が効くには民間にお金を借りたいという人たちがたくさんいなければならない。 このような人たちが低金利に反応してお金を借りて使い、高金利に反応してお金を借りて使うことを止めることで経済が金融政策に反応するのである。
バランスシートの問題でお金を借りたいという人たちがいなくなってしまうと、金融政策はそのような人たちがいなくなった時点からまったく効かなくなってしまうのである。 バブルがバブルと呼ばれるゆえんは、人々がその資産の収益還元価格をずっと無視して買い上げていったことにあるからだ。
現に、ナスダツクの指標は元に戻らなかった。 ナスダツクが底を打って回復したのは、IT関連企業の収益回復が確認された後であった。
同様に今回も、バーナンキが大幅にFFレートを下げたが、本来金利感応度の高いはずの住宅部門は図619にあるようにまったく反応していない。 一部には住宅ローンの借り換えが見られるようだが、トータルで見れば、この利下げから期待できる金融政策の効果は、1990年代の日本同様、通常のおそらく数分の一しかないはずである。
実際にバーナンキは金利を3・25%も下げたにもかかわらず、住宅価格は現物も先物もまったく反応していない。 それどころか図7で見たように、この利下げが続いた時期に現物も先物価格も大幅に下がり続けたのである。
これは住宅市場が金融緩和にまったく反応しなくなっている証しである。 バーナンキは自身の理論通りにアメリカ経済が反応しないことで、かなり焦っていると思われる。
この焦りはO8年2月の議会証言あたりから、かなり顕著に表面化してきた。 当時の議事録を見るとバーナンキはこの時点から「ドル」に賭けていることがはっきりと窺えるからだ。
一生懸命に金利を下げても、アメリカの実体経済は反応しない。 かつての日銀もゼロ%まで金利を下げたが、何も起こらなかった。

数年前のアメリカ(バーナンキもしかり)は日銀に対し、「利下げのスピードをもっと早めるべきだった」などと言っていたが、実際はお金を借りる人がいなくなっているわけだから、この種の要請はまったく見当外れの議論だった。 そのようななかで今回の一連の金利低下に唯一反応したのはドルである。
利下げにともなって、ドルが大幅に下がったからだ。 また、そのおかげでアメリカの輸出はどんどん元気を回復している。
ここ1年間のアメリカのGDPを見ると、輸出がずっとGDPの押し上げ要因になっている。 過去何十年間、一貫して押し下げ要因だったのが、ここにきてプラスに転じている。
今のバーナンキは、アメリカ経済のなかで自分の金融政策に反応するのはドルしかないのだから、ドルを介して輸出を伸ばすしかないと考えるようになったのである。 アメリカは10年以上も前からすさまじい貿易赤字国だから、本来であればもっと前からドルにして、貿易収支を改善しなければならなかった。
だからバーナンキとしては、ドルの為替レートを下げることによって貿易収支を改善し、これまで、あまりにも住宅分野に依存していた不健全なアメリカ経済を製造業や輸出が引っ張る健全な経済にもっていこう、と考えていても不思議ではない。 おそらく彼は、アメリカの実体経済が金融緩和に直接的に反応してくれないなかで、金融緩和に唯一反応しているドルを介して間接的に実体経済を支えようとしているのである。
民間資金需要を前提にしたバーナンキ理論は完全に間違っているバーナンキがいま学んでいることは、バブル崩壊後に発生するバランスシート不況では借り手不在のために金融政策が効かないということである。 私は第一章で、アメリカは銀行への資本投入が必要だと言ったが、資本投入というのは政府が資金を出すわけだから、これも財政政策であり、金融政策ではない。
こうして見ると、バーナンキの大恐慌に関する論文のかなりの部分が間違っていると言わざるを得ない。 これについては前著「「陰」と「陽」の経済学」(東洋経済新報社)で詳細に説明したので、詳しくはそちらを参照していただきたい。

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